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People 社員コラム 海洋建設のしごと

電極交換とは?海洋建設での重要性

海洋建設における電極交換とは、海中構造物の腐食を防ぐ電気防食工事の重要な一環です。

この工事は港湾施設や洋上風力発電所など、私たちの生活を支えるインフラの安全性を維持するために欠かせません。しかし、海中という不安定な環境での作業は容易ではなく、専門的な知識と技術が必要です。

この記事では、電極交換の仕組みや手順、安全対策、さらには最新の技術動向まで、わかりやすく解説します。電極交換の重要性を理解し、適切な保守管理を行うことで、海洋インフラの長寿命化と安全な運用に貢献することができます。

この記事を読み終える頃には、ふだん目にすることのない海中構造物の維持管理について、新たな視点を持つことができるでしょう。

そもそも「電極交換」とは?

電極交換とは、電気防食設備の一部である電極を新しいものに取り替える作業のことです。

電気防食とは、金属の腐食を防ぐための技術で、海洋構造物や船舶、地下埋設物など、様々な場面で利用されています。特に、海水のように腐食しやすい環境に置かれる海洋建設物にとっては、非常に重要なメンテナンス作業です。

海洋建設の「電極交換」は電気防食工事の一つ

海洋建設においては、鋼材などの金属でできた構造物が海水に常にさらされるため、腐食が深刻な問題となります。この腐食を防ぐために、電気防食という技術が用いられています。

電極交換は、この電気防食を維持するために欠かせない工事の一つです。

海洋建設の電気防食の仕組みは?

電気防食には、主に「流電陽極方式」と「外部電源方式」「環境調整法」の3種類があります。

それぞれの特徴や詳細については、以下の記事をご参照ください。

電気防食工事とは?防食対策の仕組みと原理」「電気防食工事と潜水士

この中の「流電陽極方式」に使われる陽極となる電極は防食対象物の腐食を防ぐために徐々に溶けていくため、定期的な交換が必要になります。これが「電極交換」です。

一般的には以前に取り付けた陽極が消耗し交換することから「陽極の更新」と言われることが多いです。

この電極交換を怠ると防食効果が失われ、構造物の劣化を招き、重大な事故につながる可能性があります

なぜ電極の交換が必要なの?

「流電陽極方式」の陽極は防食対象物の腐食を防ぐために溶けていきます。つまり、陽極は消耗品なのです。そのため、陽極が一定以上消耗すると十分な防食電流を供給できなくなり、防食効果が低下します

これを防ぐために、定期的な陽極の更新が必要となります。

交換時期は構造物の種類や設置環境、使用している電極の種類などによって異なりますが、一般的には数年ごとに行われます。適切な時期に電極交換を行うことで海洋構造物の安全性を維持し、長寿命化を図ることができます

海洋建設現場での電極交換の流れ

海洋構造物における電気防食の電極交換は、構造物の寿命を守る上で欠かせない作業です。それでは、その流れを詳しく見ていきましょう。

交換時期の目安と劣化症状

電極の交換時期は、電極の種類や設置環境によって異なりますが、初めて陽極を設置する時に、防食対象物の防食面積等から陽極の必要能力や必要本数を設計しライニングコストを考えて耐用年数を設計します。

基本的には耐用年数のごとに陽極の交換を行いますが、現場環境の変化などから耐用年数まで防食が維持されない可能性があるため、定期測定などで電位の変化、電極の消耗(流電陽極方式)、ケーブルの断線(外部電源方式)などがないことを確認し、これらの症状がみられた場合は交換を検討します。

劣化症状詳細
電極の消耗 (流電陽極方式)電極材料の減少により、十分な電流を供給できなくなる。
ケーブルの断線 (外部電源方式)ケーブルの劣化や外力による損傷により、電流が流れなくなる。
電位の変化電極の劣化により、防食電位が適切な範囲から外れる。

適切な時期に交換を行うことで防食効果を維持し、構造物の長寿命化につながります。具体的な交換時期の判断は、専門業者に相談することをおすすめします。

主な交換手順(潜水作業含む)

電極交換は、主に以下の手順で行われます。実際の作業は、現場の状況や電極の種類によって異なる場合があります。

  1. 事前調査・測定:陸上作業員が電位の変化(電位測定)を測定し電位の数値が基準値内に入っているか確認します。また、潜水士による海中状況の確認、既存電極の状態確認などを行い「外部電源方式」の場合は電極やケーブルの状態の確認を行い、「流電陽極方式」の場合は陽極の残存状態(陽極が溶けないで残っている量)を確認します。
  2. 準備作業:新しい電極、ケーブル、工具などを準備します。作業船や潜水機材の点検も重要です。
  3. 潜水作業:潜水士が海中に潜って古い電極を取り外し、新しい電極を設置します。「外部電源方式」の場合はケーブルの接続作業も行います。
  4. 通電試験(外部電源方式):新しい電極が正しく機能しているかを確認するために、通電試験を行います。
  5. 最終確認:設置状況を写真などに収め、事前調査と同様の「電位測定」を行い電位値が基準値を満たしているか確認し、作業完了となります。

特に、潜水作業は危険を伴うため、安全対策を徹底する必要があります。潜水士の経験と技術はもちろん、適切な機材の選定が不可欠となります。

安全確保のための対策

海洋建設現場での電極交換は、海中という特殊な環境で行われるため、安全確保が最優先事項となります。主な安全対策は以下の通りです。

  • 潜水作業計画の策定:作業手順、緊急時の対応などを事前に明確に定めます。
  • 潜水士の健康管理:潜水作業前の健康チェックを徹底します。
  • 通信設備の確保:潜水士と連絡員(陸上作業員)との間で、常に連絡が取れるように通信設備を整備します。
  • 緊急時の対応訓練:万が一の事故に備え、緊急時の対応訓練を定期的に実施します。

これらの対策を講じることで安全な作業環境を確保し、事故の発生を未然に防ぐことができます。関係者全員が安全意識を高く持ち、協力して作業を進めることが大切です。

電極交換に関わる課題と対応策

海洋建設における電極交換は、安全かつ円滑なインフラ運用に不可欠な作業ですが、特殊な環境であるがゆえの課題も存在します。

ここでは、電極交換に関わる主な課題と、その対応策について解説します。

海中での施工リスクと作業効率化

電極交換は、海中という特殊な環境で行われるため、陸上での作業に比べて様々なリスクが伴います。

例えば、潮流や波浪の影響で作業が困難になる場合や、視界不良による作業ミス、潜水士への安全リスクなどが挙げられます。

これらのリスクを軽減し、作業効率を高めるための対策として、以下のような方法がとられています。

課題対応策
潮流・波浪の影響潮流や波浪の穏やかな時間帯を選んで作業を行う、特殊な設備を準備し潮流・波浪の影響を受けない状態で作業する
視界不良潜水士同士が水中で同時通話が出来る水中電話の導入や潜水経路を事前に確認してから作業を行う
潜水士の安全リスク綿密な潜水計画を立て、安全手順を遵守する、潜水士の健康状態を常に確認する、緊急時の対応体制を整える

東日本海洋建設の事例紹介

東日本海洋建設は、海洋土木工事や港湾整備工事を専門としております。

その豊富な実績の中から、今回は能代港風力発電設備における電極交換工事の事例を紹介します。

能代港風力発電設備

秋田県能代市にある能代港は、風力発電の適地として知られています。能代港風力発電設備は、港湾区域に設置された大規模な風力発電施設です。

能代港風力発電設備

この施設の安定稼働を支えるため、東日本海洋建設は定期的なメンテナンスを実施しています。その中でも重要なのが、海中基礎構造物の電気防食システムにおける電極交換です。

まとめ|「見えない場所」の工事がインフラを支える

ここまで、海洋建設における電極交換の重要性について解説してきました。

電極交換とは、電気防食という技術を用いて、海中にある鋼構造物を腐食から守るための重要なメンテナンス作業です。ふだんは海面下に隠れており、目にする機会はほとんどありませんが、港湾施設や洋上風力発電設備など、私たちの生活を支える重要なインフラを陰で支えています。

電極交換は、劣化の兆候を見極めるための定期的な点検専門の潜水士による海中での作業など、多くの工程を経て行われます。海況や潮流など、自然環境の影響を受けやすく、安全確保のための周到な準備と高度な技術が求められる作業です。

電極交換は、まさに「見えない場所」で行われる重要な工事です。この地道な作業によって、私たちの暮らしを支える海洋インフラの安全性が保たれていることを理解し、その重要性を知っていただけたら嬉しいです。

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