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People 社員コラム 海洋建設のしごと

知られざる海洋土木と防災の関係

海に囲まれた日本では、近年、地震や津波、台風による高潮など、自然災害が頻発しています。中でも特に沿岸部では、その脅威から私たちの暮らしを守るための対策が不可欠です。

そこで、本記事では、陸上だけでは対応しきれない沿岸地域の防災を支える「海洋土木」の知られざる役割について説明します。

なぜ海洋土木が防災に必要不可欠なのか、そして防波堤や護岸など具体的な工事を通じて、いかに私たちの命と財産を守っているのかを知っていただくことで、海洋土木が、いかに日本の安全な未来を築く上で欠かせない存在であるかを理解していただけることでしょう。

なぜ「防災」に海洋土木が必要なの?

日本は四方を海に囲まれた島国であり、その美しい海岸線は私たちの暮らしに豊かな恵みをもたらしてきました。

しかし、同時に、海は時に私たちに牙を剥き、甚大な災害をもたらす存在でもあります。このような日本の地理的特性を考慮すると、防災対策において海洋土木が不可欠な役割を担っていることをご理解いただけるのではないでしょうか。

海沿いの地域で自然災害が頻発している日本の現状

日本列島は、約3.5万kmにも及ぶ長い海岸線を有しており、その沿岸部には多くの人々が生活し、産業が集中しています。港湾や漁港、臨海部の工場群、さらに交通インフラなど、私たちの社会を支える重要な機能が海沿いに集積しているのが現状です。

しかし、この恵まれた環境は、津波、高潮、波浪、台風による高波といった海洋性自然災害のリスクと常に隣り合わせであることを意味します。特に近年では、気候変動の影響により、これらの災害が激甚化・頻発化する傾向にあり、沿岸地域の安全と経済活動はより一層の脅威にさらされています。

地震による津波の発生や、発達した台風がもたらす高潮は、ひとたび発生すれば人命や財産に計り知れない被害をもたらす可能性があります。

陸上の土木だけでは守れないエリアを担うのが海洋土木

「土木」と聞くと、道路や橋、ダムといった陸上の構造物を思い浮かべる方が多いかもしれません。確かに、陸上土木は河川の氾濫や土砂災害など、内陸部の防災において重要な役割を果たしています。

しかし、海から来る脅威から私たちの国土や暮らしを守るためには、陸上土木だけでは対応しきれない領域が存在します。

海洋土木は、陸上とは異なる、波や潮汐、潮流、海底地盤といった特殊な海洋環境下で、防災・減災のための構造物を建設・維持する専門技術です。具体的には、津波や高潮のエネルギーを減衰させる防波堤や消波ブロック、海岸線の浸食を防ぐ護岸など、海からの直接的な攻撃を防ぐための工事を担います。

陸上土木と海洋土木の役割を比較すると、その違いはより明確になります。

項目 陸上土木 海洋土木
主な対象エリア 内陸部、河川沿い、山間部 沿岸部、海上、海底
主な災害 河川の氾濫、土砂災害、地滑り、内水氾濫 津波、高潮、波浪、海岸浸食、台風による高波
守るもの 内陸の生活、農地、道路、住宅地 沿岸住民の生命と財産、港湾、漁港、臨海部産業、海岸線
求められる技術 地盤改良、河川改修、橋梁建設、トンネル掘削など 水中工事、大型海洋構造物建設、海底地盤調査、耐波・耐震設計

このように、海洋土木は海に面した日本の国土と、そこで暮らす人々の命と財産を海の脅威から守る「最後の砦」とも言える重要な役割を担っているのです。
私たちは海洋土木の技術と知見によって、安全で豊かな社会基盤を維持し、未来へと繋いでいくことができるのです。

海洋土木が関わる主な防災工事とは

私たちの暮らしを自然災害から守る上で、陸上の土木工事が果たす役割は非常に大きいものですが、海に面した日本では、海洋土木が災害から人々を守るための重要な役割を担っています。中でも、津波や高潮、波浪といった海から来る脅威に対しては、海洋土木の技術が欠かせません。

そこで、海洋土木が具体的にどのような防災工事に関わっているのか、その主な内容をご紹介します。

防波堤・消波ブロック設置工事

防波堤や消波ブロックは、津波や高潮のほか、日常的な波浪から沿岸地域や港湾施設を守るための役割を担っています。

防波堤の役割と工法

防波堤は、港湾の入口や沖合に設置され、波のエネルギーを減衰させることで港内の静穏度を保ち、船舶の安全な航行や荷役作業を行えるようにします。また、大規模な津波や高潮の際には、その勢いを和らげ、陸地への浸水を軽減する役割も果たします。

防波堤の役割と工法

消波ブロックの役割と工法

消波ブロックは、海岸線や護岸の前面に設置され、押し寄せる波のエネルギーを吸収・分散させることで海岸の浸食を防ぎ、越波(波が護岸などを乗り越える現象)を抑制します。

多角的な形状を持つコンクリート製のブロックを不規則に積み重ねることで、波が衝突した際に生じる衝撃を和らげ、その力を弱める効果があります。その結果、背後の護岸や陸地への影響を最小限に抑え、沿岸地域の安全を確保することができます。

消波ブロックの役割と工法

護岸補強・嵩(かさ)上げ工事

護岸は、海岸線や河川・運河沿いに設置され、陸地を波や流れから守る重要な役割を担っています。しかし、長年の使用や自然災害によって老朽化したり、想定を超える津波や高潮のリスクが高まったりすることもあります。
そこで行われるのが、護岸の補強や嵩(かさ)上げ工事です。

護岸補強工事の必要性

既存の護岸が老朽化すると、ひび割れや剥離が生じ、構造物の強度が低下します。また、地震による液状化現象や地盤の変動によって、護岸が傾いたり沈下したりするリスクも高まります。このような状況では、護岸本来の防災機能が損なわれ、背後の陸地や施設が危険にさらされることになります。

そのため、護岸補強工事では、既存の護岸を対象に、鋼矢板の打設による基礎の強化コンクリートの増し打ちアンカー工法による背面からの固定など、様々な技術を駆使して構造物の耐久性や耐震性を向上させます。
その結果、老朽化した護岸が再び強固な防災施設として機能するようになります。

護岸嵩上げ工事の目的

近年、地球温暖化による海面上昇や大規模な津波・高潮の発生が懸念されており、既存の護岸では想定される災害レベルに対応できないケースが増えています

護岸嵩上げ工事は、既存の護岸の高さを増すことで、想定される津波や高潮の浸水高を上回り、越波や浸水被害をより効果的に防ぐことを目的としています。

具体的には、既存の護岸の上に新たなコンクリート構造物を追加したり、堤防を盛り土したりするなどの方法がとられます。この工事により、沿岸地域の安全性が飛躍的に向上し、住民の生命と財産を守ることに役だっています。

護岸補強・嵩上げ工事の主な目的と効果

工事の種類 主な目的 期待される効果
護岸補強工事 老朽化・損傷した護岸の強度・耐久性・耐震性の向上 海岸線の浸食防止、地盤の安定、背後地の安全確保
護岸嵩上げ工事 想定される津波・高潮位への対応能力の強化 越波・浸水被害の軽減、沿岸地域の防災レベル向上

港湾機能の維持・復旧

港湾は、物流の拠点であるだけでなく、災害時には緊急物資の輸送や人命救助、復旧活動の拠点となる「命綱」とも言える重要なインフラです。

海洋土木は、平時における港湾機能の維持管理から、災害発生時の迅速な復旧まで、多岐にわたる役割を担っています。

平時における港湾機能の維持

港湾の機能維持には、日常的な点検とメンテナンスが欠かせません。
例えば、船舶が安全に航行・停泊できるよう、航路や泊地の水深を保つための「浚渫(しゅんせつ)」工事は、堆積した土砂を取り除く重要な作業です。

また、岸壁や防波堤などの港湾施設の老朽化や損傷を早期に発見し、補修を行うことも海洋土木の重要な仕事です。
これらの維持管理を通じて、災害に強い港湾を構築し、いざという時にその機能が最大限に発揮されるよう備えています

災害発生時における迅速な復旧

地震や津波、台風などの自然災害が発生した場合、港湾施設は甚大な被害を受けることがあります。このような時、海洋土木技術は「被災した港湾を迅速に復旧させ、社会の回復を支える」という重要な役割も担っているのです。

東日本海洋建設が果たす防災への貢献

海洋土木は、目に見えないところで、私たちの暮らしと安全を支える重要な役割を担っています。

東日本海洋建設は、長年にわたり培ってきた高度な技術と豊富な経験を活かし、具体的なプロジェクトを通じて、日本の防災力向上に大きく貢献しています。

ここでは、東日本海洋建設が手掛けた代表的な防災関連工事の一部をご紹介します。

千葉県:富士電機千葉工場での「護岸据付工事」

千葉県に位置する富士電機千葉工場は、日本の産業を支える重要な生産拠点の一つです。しかし、海に面しているため、高潮や津波、さらには日常的な波浪による護岸の浸食といった自然災害のリスクに常にさらされています。

このような環境下で、工場施設の安全を確保し、安定した生産活動を継続するためには、強固な護岸の存在が不可欠となります。

東日本海洋建設は、この富士電機千葉工場において、護岸据付工事を担当いたしました。この工事では、「既存護岸の老朽化対策」「機能強化」を目的とするもので、強固な護岸構造物を正確に据え付けることで、工場敷地への浸水を防ぎ、施設の損傷リスクを大幅に低減しました。

護岸据付工を行ったことにより、災害時においても工場の機能を維持することができ、製品が消費者に届くまでの流れ(サプライチェーン)が途絶えることなく機能し続けるための基盤が強化されました。

これは、単なる土木工事に留まらず、日本の産業活動と国民生活を守る上での重要な防災対策と言えるでしょう。

千葉県:富士電機千葉工場での護岸据付工事

東京都:中央防波堤 被覆防食工事

東京湾に位置する「中央防波堤」は、首都東京を高潮や津波から守るための最前線の防護壁であり、その役割は計り知れません。また、港湾機能の維持においても極めて重要なインフラです。

しかし、海洋構造物は塩害や波浪による摩耗と経年劣化といった過酷な環境に常にさらされており、定期的なメンテナンスと補強が欠かせません。

東日本海洋建設は、この重要な「中央防波堤」において、被覆防食工事を実施いたしました。この工事の目的は、防波堤のコンクリート構造物を特殊な材料で被覆し、塩害や劣化の進行を抑制することで構造物の長寿命化を図ることにあります。

被覆防食工事により、防波堤の耐久性が向上し、将来にわたって首都圏の安全を確保するための機能が維持・強化されます。これは、東京湾における物流の安定化にも役立つため、首都圏の経済活動を支える重要な防災投資であると言えるでしょう。

東京都:中央防波堤 被覆防食工事

まとめ:海の仕事は、命と暮らしを守る仕事

海に囲まれた日本において、自然災害、特に台風や津波、高潮による被害は、常に私たちの暮らしと隣り合わせにあります。陸上の土木工事だけでは守りきれない広大な沿岸地域や海上施設を守る上で、海洋土木の役割は不可欠であることを、本記事を通じてご理解いただけたのではないでしょうか。

防波堤や消波ブロックの設置による波浪の抑制既存の護岸を補強し嵩上げすることで浸水被害を防ぐ工事、さらに災害発生時にライフラインとなる港湾機能を迅速に維持・復旧させる活動など、海洋土木は多岐にわたる側面から防災に貢献しています。

人々の目には見えにくい場所で行われることも少なくありませんが、地域社会の安全と経済活動を支える極めて重要な基盤を築いています。

このように、海の仕事は、単に構造物を造るだけではなく、さまざまなプロジェクトを通じて、日本の防災力強化に日々尽力しています。それは、自然の猛威から人々を守り、未来へと続く豊かな暮らしを築き上げる、尊い使命を帯びた仕事なのです。

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