2025-07-31
海洋建設ケレン作業とは

海に囲まれた日本において、私たちの生活や経済活動を支える海洋構造物は、常に過酷な環境下で劣化や腐食のリスクに直面しています。こうした護岸の健全性を保ち、長寿命化を実現するために欠かせないのが「防食工事」です。
「防食工事」の一番最初の工程が「ケレン作業」になります。
この記事では、「ケレン作業」の基本的な知識から、海洋建設におけるその重要性と具体的な作業内容、必要な資格まで解説します。
海洋構造物の維持管理に携わる方や、この分野にご興味のある方にとって、「ケレン作業」が海洋インフラの安全と耐久性を支える上でいかに重要かを深く理解していただけたら幸いです。
ケレン作業時の粉塵飛散を防ぐための道具については「ケレン作業で粉塵飛散を防ぐ道具とは?」をご覧下さい。
ケレン作業とは?
海洋構造物において、ケレン作業は海洋構造物の長寿命化と安全性を確保するために欠かせない重要な工程です。
この作業は、既存の護岸構造物、特に鋼材やコンクリート表面に付着した錆、旧塗膜、汚れなどを徹底的に除去し、新たな塗装や防食処理を施すための下地を整えることを目的としています。海洋構造物に何かを塗る、設置する前の下地処理の作業になります。
過酷な海洋環境下にある護岸は、常に塩害や波浪、潮汐などの影響を受け、腐食や劣化が進行しやすい特性を持っています。そのため、下地処理「ケレン」が適切に行われていないと、どんな塗装や設備を設置しても設備の耐久性を向上させることは出来ません。
種類と目的
ケレン作業は、対象となる素材や求められる防食性能に応じて、さまざまな種類と目的があります。そこで、それぞれの目的と具体的なケレン作業の種類について詳しくご紹介いたします。
ケレン作業の目的
ケレン作業の最も重要な目的は、塗装や防食処理の効果を最大限に引き出すための「下地処理」にあります。具体的には、以下のような目的が挙げられます。
- 旧塗膜や錆の除去: 既存の塗膜が劣化していたり、鋼材に錆が発生したりしている場合は、これらを完全に除去して、新しい塗料が均一に密着するようにします。
- 塗料の密着性向上: 表面を粗くすることで、塗料が物理的に食い込みやすくなり、密着性が向上します。その結果、塗膜の剥がれや浮きを防ぎ、長期的な防食効果を維持できます。
- 防食効果の最大化: 錆や不純物が残ったまま塗装すると、その下で腐食が進行し、早期に塗膜が劣化する原因となります。ケレン作業によって健全な素地を露出させることで、塗料本来の防食性能を最大限に発揮できるようにします。
- 構造物の健全性維持: 腐食の進行を食い止めることで、構造物自体の強度低下を防ぎ、長期的な安全性を確保します。
ケレン作業の種類
ケレン作業には、除去する錆や旧塗膜の程度に応じて、いくつかの種類があります。一般的には、日本工業規格(JIS)や国際標準化機構(ISO)の規格に基づいた等級が用いられ、求められる防食性能や工期、コストなどを考慮して適切な方法が選択されます。
これらのケレンの種類は、対象物の状態や、その後に施される塗装の種類と求められる耐久年数によって慎重に選定されます。つまり、適切なケレン方法の選択が、塗装の品質と構造物の寿命を大きく左右するのです。
ケレン作業の詳細は「ケレン作業とは?どんな作業?なんのためにやるの?」をご覧ください。
護岸部でのケレン作業後の防食の特徴
護岸部でのケレン作業は、一般的な構造物とは異なり、海洋環境特有の厳しい条件に直面します。そのため、工事計画や施工方法に大きな影響を与えます。
- 塩害と腐食の進行: 海水に含まれる塩分は、鋼材の腐食を急速に進行させます。そこで重要になるのが、迅速なケレン作業後、防食工事を行うことにより錆の再発防止を防ぎます。
- 潮汐と波浪の影響: 潮の満ち引きや波の動きは、作業時間を制限し、足場の設置や機材の配置を困難にします。特に、水際や水中での作業が必要となる場合、特殊な水中ケレン技術や潜水士の専門知識が欠かせません。
- 手狭な空間とアクセス: 護岸の形状によっては、作業スペースが限られたり、重機が入りにくい場所もあります。このような場合、手作業や小型の動力工具を用いたり、高所作業車や船舶を利用したアクセス方法を検討する必要があります。
- 環境への配慮: ケレン作業で発生する錆や旧塗膜の粉塵、使用する洗浄水などが海洋環境に影響を与えないよう、飛散防止対策や汚水処理など、厳格な環境規制への遵守が求められます。
- 安全性確保の重要性: 滑りやすい足場、高所作業、水中作業など、危険を伴う作業が多いため、作業員の安全確保が最優先されます。適切な保護具の着用や安全対策の徹底、有資格者による作業が必須となります。
これらの特徴を理解し、適切な工法と安全管理体制を確立することが、ケレン作業・防食工事を成功させるためのポイントとなります。
なぜ海洋建設では防食工事が重要なの?
海洋構造物は、常に過酷な自然環境にさらされています。中でも、海水や潮風の影響は大きく、海洋構造物の劣化を早める要因となります。
このような環境下で構造物の安全性と耐久性を確保し、その機能を維持するために、防食工事が極めて重要な役割を担っているのです。
海洋構造物が直面する腐食リスク
海洋構造物、特に護岸や防波堤、桟橋といった施設は、その性質上、常に海水や潮風にさらされています。そのため、構造物を構成する鋼材やコンクリートに様々な形でダメージを与え、深刻な腐食リスクをもたらします。
以下に、主なリスクをまとめます。
- 塩害(塩分濃度と潮風):海水に含まれる塩分は、鋼材の腐食を促進させる最大の要因です。潮風によって運ばれる塩分も水面上に位置する構造物の表面に付着し、錆の発生を加速させます。
- 海水による浸食と摩耗:波の力や潮流、あるいは漂流物との接触によって、構造物の表面は常に物理的な浸食や摩耗にさらされています。その結果、保護層が削り取られ、内部の素材が露出しやすくなります。
- 生物付着(海洋生物の影響):フジツボやカキなどの海洋生物が構造物の表面に付着することで、その部分の通気が遮断されたり、排泄物によって局所的な腐食環境が形成されたりすることがあります。
- 紫外線と温度変化:太陽光に含まれる紫外線は、塗膜の劣化を促進させ、ひび割れやチョーキング現象を引き起こします。また、昼夜や季節による温度変化は、材料の膨張・収縮を繰り返し、構造物へのストレスとなります。
これらの複合的な要因によって、構造物の強度が低下し、機能不全や安全性の問題を引き起こす可能性があります。結果として、施設の寿命が短縮され、大規模な補修や交換が必要となるケースも少なくありません。
塗装・防食工事前の下地処理としての役割
海洋構造物の腐食を防ぎ、その耐久性を高めるためには、適切な防食塗装が欠かせません。しかし、この防食塗装の効果を最大限に発揮するためには、塗装前の「下地処理」としてのケレン作業が極めて重要となります。
ケレン作業の主な目的は、防食対象となる表面から、以下のような不純物や劣化層を徹底的に除去することにあります。
除去対象 | 除去の必要性 |
---|---|
既存の錆(赤錆、黒錆など) | 錆が残った状態では、新しい塗料が素材に密着せず、塗膜の下で腐食が進行する「潜在的な腐食」を引き起こします。 |
旧塗膜の劣化部分や剥離部分 | 劣化した旧塗膜は、新しい塗膜の密着を阻害し、早期の剥離や膨れの原因となります。強固に付着している旧塗膜であっても、表面の汚れやチョーキング層を除去し、適切な粗面を形成することが重要になります。 |
油分、塩分、泥、その他の異物 | これらの不純物は塗料の密着を著しく阻害し、塗膜の欠陥や早期劣化の原因となります。特に海洋環境では塩分の除去が必須となります。 |
適切なケレン作業によって、塗装面は清浄かつ適切な粗面に調整されます。そのため、塗料が素材にしっかりと食い込み、強固な密着力を確保することができるようになります。
密着性の高い塗膜は、剥がれにくく、外部からの腐食要因に対するバリア機能を長期間維持することができるようになります。結果として、防食効果が最大限に引き出され、海洋構造物の長寿命化と維持管理コストの削減に大きく貢献するのです。
ケレン作業は、単なる表面の清掃作業ではなく、防食塗装の品質と耐久性を決定づける、非常に専門的かつ重要な工程であると言えるでしょう。
東日本海洋建設の施工実績
日本の豊かな海洋資源を未来へ繋ぎ、安全な暮らしを支える上で、海洋インフラの維持管理は極めて重要な役割を担っています。中でも、護岸は常に波浪や潮汐、船舶の往来といった厳しい自然環境にさらされているため、その健全性を保つためには専門的なメンテナンスが欠かせません。
三重県の木曾岬
三重県に位置する木曾岬は、伊勢湾に面した重要な地域であり、その護岸は地域の産業活動や人々の生活を守る上で欠かせないインフラです。
東日本海洋建設では、このような重要な沿岸地域の護岸構造物の維持管理に積極的に取り組み、ケレン作業を含む多岐にわたる護岸補修工事を通じて、地域の安全と発展に貢献しています。

ケレン作業の作業に必要な資格とは?
海洋建設におけるケレン作業は、その特性上、危険を伴う作業や専門的な技術を要する場面が多々あります。
そのため、作業の安全性を確保し、高品質な施工を実現するためには、特定の資格や技能講習の修了が必須となります。
ここでは、ケレン作業に携わる際に役立つ、あるいは取得が義務付けられている主な資格についてご紹介いたします。
ケレン作業に使える資格
ケレン作業は、単に錆を落とすだけでなく、その後の防食処理までを見据えた重要な工事です。したがって、作業内容に応じて様々な専門知識と技術が求められます。
そこで、ケレン作業や、それに付随する塗装、足場、安全管理、重機操作に至るまで、幅広い視点から必要な資格を紹介していきます。
作業内容に応じた専門資格
ケレン作業は、高所や水中、あるいは化学物質を扱う環境下で行われることもあります。それぞれの作業特性に応じた専門資格の取得は、作業の品質向上と同時に、作業員の安全を確保するための法的義務でもあります。
- 潜水士:水中での作業を行うのにもっとも多く活躍するのは潜水士です。護岸の水中部分にケレンが必要な場合、潜水士の資格を持つ作業員が不可欠です。水中での視界不良や水圧といった特殊な環境下で、安全かつ正確に作業を行うための専門知識と技術が求められます。
潜水士については「海の中で仕事をしよう!潜水士のお仕事〜未経験OK求人〜海洋建設に転職して潜水士に!」をご覧下さい。 - 有機溶剤作業主任者:塗料や洗浄剤には、有機溶剤が含まれることが多くあります。有機溶剤作業主任者は、有機溶剤を取り扱う作業現場において、作業方法の決定や作業員の指揮、換気装置の点検など、作業員の健康障害を防止するための管理を行います。
有機溶剤特別教育については「有機溶剤特別教育とは?講習内容と対象業務について紹介」をご覧下さい。
労働安全衛生法により、特定の有機溶剤を取り扱う作業場には選任が義務付けられています。 - 特定化学物質等作業主任者:有機溶剤以外にも、特定の化学物質を使用する場合には、この資格が必要となることがあります。危険な化学物質から作業員を守るための重要な役割を担います。
- 足場の組立て等作業主任者:護岸の高さや形状によっては、足場を組んで作業を行う必要があります。足場の組立て等作業主任者は、足場の組立てや解体、変更の作業において、作業方法の決定や作業員の指揮を行うための資格です。安全な足場を確保することは、高所作業における事故防止に直結します。
足場組立主任技術者・足場組立(特別教育)については「足場組立主任技術者・足場組立(特別教育)とは?違いについて紹介」をご覧下さい。 - 高所作業車運転技能講習:高所作業車を使用してケレン作業を行う場合、この講習の修了が義務付けられています。正確な操作と安全確認により、高所での作業を円滑に進めることができます。
安全管理と監督のための資格
大規模な護岸ケレン作業では、複数の作業員が同時に作業を進めるため、全体の安全管理と作業の指揮監督が非常に重要になります。
これらの資格は、現場全体の安全と品質を担保するために欠かせません。
- 作業主任者(上記各作業に付随):有機溶剤作業、足場の組立て作業など、特定の危険な作業を行う際には、それぞれの作業主任者を選任することが義務付けられています。作業主任者は、当該作業における具体的な指揮命令と安全管理を行います。
- 土木施工管理技士:港湾工事を含む土木工事全体の計画、工程管理、品質管理、安全管理を行うための国家資格です。特に1級土木施工管理技士は大規模な工事現場の施工管理を行うことができます。工事全体の品質と安全を統括する上で極めて重要な資格です。
重機・特殊車両操作の資格
ケレン作業に必要な資材の運搬や足場、機材の設置には、様々な重機や特殊車両が使用されます。これらの車両を安全かつ効率的に操作するためには、適切な技能講習の修了が求められます。
- 小型移動式クレーン運転技能講習:資材や機材の吊り上げや運搬に小型移動式クレーンを使用する場合に必要です。吊り荷の安全な運搬には、正確な操作技術が必須となります。
- 玉掛け技能講習:クレーンで荷物を吊り上げる際に、フックにワイヤーロープなどを掛ける作業(玉掛け)を行うための資格です。クレーン作業の安全性を直接左右する重要な作業であり、この講習の修了が義務付けられています。
小型移動式クレーンと玉掛けについては「小型移動式クレーンと玉掛けとは?技能講習について紹介」をご覧下さい。 - フォークリフト運転技能講習:資材の積み下ろしや運搬にフォークリフトを使用する場合に必要です。効率的な資材管理に貢献します。
これらの資格は、護岸ケレン作業の安全かつ効率的な実施に役立つだけでなく、法的要件を満たす上でも極めて重要になります。
東日本海洋建設は、これらの資格を持つ人材を確保し、適切な配置を行うことで、信頼性の高い施工を自信を持って提供しております。
まとめ|海洋建設とケレン作業の大切な繋がり
海洋建設において、ケレン作業は、単なる表面処理にとどまらない極めて重要な役割を担っています。
海洋構造物は、常に塩分を含んだ海水、強い波浪、紫外線といった過酷な自然環境にさらされており、これらの要因が引き起こす金属の腐食は、構造物の強度低下や劣化を招き、最悪の場合、重大な事故につながる可能性があります。
このようなリスクから構造物を守るために不可欠なのが、塗装や防食処理です。しかし、これらの防食効果を最大限に引き出し、長期にわたって維持するためには、その前段階として、錆や旧塗膜を徹底的に除去する「ケレン作業」が欠かせません。ケレン作業によって、塗料がしっかりと密着する健全な下地が作られ、防食層が本来の性能を十分に発揮できるようになるためです。
つまり、ケレン作業は、海洋構造物の安全と耐久性を確保し、その寿命を延ばすための、まさに「基礎を支える」重要な工程なのです。
この適切な下地処理なくしては、いかに高品質な塗料を用いても、その効果は半減してしまいます。私たちは、このケレン作業の重要性を深く認識し、未来にわたって安全で強靭な海洋構造物を築き続けるために、その役割をこれからも大切に担っていきます。
私たち東⽇本海洋建設は、これからの⽇本の国⼟を⽀えてくれる、チャレンジ精神溢れる⼈材を求めています。若⼿が闊達に意⾒を述べ、ベテランとの相乗効果を発揮して、技術⼒を⾼め、信頼を得られる仕事を続けていく、それが当社の理想であり、その姿が今社⾵として根付いてきています。
⾃分の気持ちを表現すると同時に⼈の話も聞ける⼈、双⽅の⽴場に⽴って、互いの意⾒を調整することにやりがいを感じられる⼈、そして、相⼿のためにやったことが⾃らのためになると信じて前に進んでいける⼈──そんな⼈たちからのご応募をお待ちしています。
⼀緒に、⽇本の未来を⽀えていきましょう。