2025-07-31
海洋建設の現場を支える「調査作業」の重要性と種類について

海洋建設の工事における成功は、緻密な「調査」によって支えられています。
この調査は、安全な施工と構造物の長期的な維持管理に欠かせないものです。
この記事では、海洋土木工事における調査の重要性と具体的な種類、そして東日本海洋建設が高度な調査技術と厳格な安全管理体制を確立している様子をご紹介します。
海洋建設における調査の全貌と、それがプロジェクトの信頼性の向上にどう貢献しているのかを知っていただける機会になるでしょう。
海洋土木工事における「調査作業」とは?
海洋土木工事は、陸上での建設工事とは異なり、波や潮流、海底の地盤状況など、予測が難しい特殊な海洋環境下で行われるものです。
そのため、工事の成功と安全を確保するためには、事前の徹底した「調査作業」が不可欠となります。
この調査作業は、単にデータを集めるだけでなく、未知の要素を明らかにし、リスクを最小限に抑え、最適な計画を立案するための基盤となる極めて重要なプロセスです。確かな調査データがあってこそ、安全で経済的で高品質な海洋構造物の建設が実現できるのです。
どんな調査をするの?
海洋土木工事における調査は、多岐にわたる項目に及びます。主な目的は、工事対象となる海域の自然環境、海底の地盤状況、既存の構造物の状態などを正確に把握することにあります。
具体的には、以下のような調査が行われます。
- 海洋環境調査:波の高さ、潮流の速さ、水深、水温、塩分濃度、海象・気象条件など、工事に影響を与える自然現象を詳細に測定します。
- 海底地形・地質調査:構造物の基礎設計に直結する海底の形状や水深の変化、海底の土質(砂、泥、岩盤など)、地盤の強度や安定性などを確認します。
- 既存構造物調査:既設の港湾施設や護岸、海底ケーブルなどが工事対象区域にある場合、それらの老朽化状況、損傷の有無、構造的な健全性を評価します。
- 環境影響調査:工事が海洋生態系や周辺環境に与える影響を事前に予測し、適切な対策を講じるための基礎データを収集します。
これらの調査を通じて得られたデータは、工事の計画立案、設計、施工方法の選定、安全管理の全てにおいて羅針盤となるものです。
なぜ調査が重要なの?
海洋土木工事において調査が極めて重要である理由は、主に以下の3点にあります。
- 安全性の確保:海洋環境は予測不能な要素が多く、事前の調査なくしては予期せぬ事故や災害のリスクが高まります。地盤の不安定性や急な潮流の変化など、潜在的な危険因子を特定して対策を講じることで、作業員の安全と構造物の長期的な安定性を確保します。
- 経済性の向上:不正確な情報に基づいた計画は、設計変更、工期の延長、追加工事といった無駄なコスト発生に繋がりかねません。詳細な調査データがあることで最適な工法や資材の選定ができるようになり、無駄を排除した効率的な工事計画を実現することができます。その結果、プロジェクト全体のコスト削減に貢献します。
- 品質の確保と信頼性の向上:地盤の支持力不足や環境条件の誤解は、構造物の早期劣化や機能不全を引き起こす可能性があります。正確な調査データは、設計の精度を高め、高品質で耐久性のある構造物を建設するための基礎となり、発注者様からの信頼を得る上でも欠かせないものとなります。
このように、調査は単なる情報収集に留まらず、工事全体の成功を左右する主軸となるものと言えるでしょう。
施工前・施行中・維持管理フェーズごとの調査の役割
調査作業は、海洋土木工事の各フェーズにおいて、それぞれ異なる重要な役割を担っています。プロジェクトのライフサイクルを通じて調査データが活用されることで、一貫した安全性と品質を保つことができます。
フェーズ | 調査の主な役割 | 具体的な活用例 |
---|---|---|
施工前 | 計画・設計の基礎データ収集 リスク評価と対策立案 許認可取得のための資料作成 |
構造物の基礎設計に必要な地盤データを提供する 波浪や潮流データに基づく最適な構造形式を選定する 環境影響評価書の作成 工事費見積もり精度の向上 |
施工中 | 計画との整合性確認 予期せぬ状況への対応 品質管理・安全管理の支援 |
基礎地盤の支持力確認(計画値との照合) 構造物の据付精度を確認する 潜水士による作業進捗状況の目視確認を行う 天候や海象の変化に応じた作業中断を判断する |
維持管理 | 構造物の健全性評価 劣化・損傷状況の把握 補修・補強計画の立案 |
定期的な潜水点検による構造物のひび割れや腐食状況を確認する 海底地形の変化や堆積状況をモニタリングする 長寿命化計画のためのデータを収集する 緊急時の迅速な損傷状況を把握する |
このように、調査は工事の始まりから終わりに加え、その後の維持管理に至るまで、全てのフェーズにおいて重要な役割があります。つまり、精密な調査が海洋構造物のライフサイクルを支えているのです。
東日本海洋建設が行う主な調査の種類
海洋構造物の建設や維持管理において、多岐にわたる専門的な調査はプロジェクトの成功を左右する極めて重要なものです。東日本海洋建設では、以下に示す様々な種類の調査を遂行し、お客様に安心と信頼のサービスを提供しております。
潜水調査(ダイバーによる目視・撮影)
潜水調査は、水中の構造物や海底の状況を直接、詳細に把握するために不可欠な調査です。熟練した潜水士が水中に入り、目視による点検や、高精細な水中カメラを用いた撮影を行います。
潜水調査を行うことによって、肉眼でしか確認できない微細な損傷や異変、堆積物の状況などを正確に記録することができます。
老朽化点検(既設構造物の調査)
日本の海洋インフラは高度経済成長期に集中的に整備されたものが多く、現在、多くの構造物が老朽化の課題に直面しています。
東日本海洋建設では、既設の海洋構造物が安全に機能し続けるよう、定期的な老朽化点検を実施し、その健全度を評価しております。
老朽化点検の主な目的は以下になります。
- 構造物の安全性確保:損傷や劣化の早期発見と評価を行う
- 長寿命化:適切な補修計画の策定による供用期間の延長の検討・提案を行う
- 機能維持:構造物の本来の役割が果たせるかの確認を行う
点検では、目視によるひび割れや剥離、鉄筋露出、腐食、変形などの確認を確認し写真撮影や図面作成などを行い報告書を作成します。
これらの調査結果に基づき、構造物の健全度を診断し、必要に応じて補修・補強工事の提案を行います。計画的な点検と補修は、予期せぬ事故を防ぎ、維持管理コストの最適化に貢献することにも繋がります。
東日本海洋建設では行っていませんが、他には次の様な調査も行います。
海底地盤調査(ボーリング・サウンディング)
海洋構造物を安全かつ確実に建設するためには、その基礎となる海底地盤の特性を正確に把握することが極めて重要になります。海底地盤調査では、構造物の支持力や沈下、液状化の可能性などを評価し、最適な基礎設計を行うための基盤情報を提供します。
主な調査手法として、ボーリング調査とサウンディング調査があります。
ボーリング調査
ボーリング調査は、海底に掘削孔を設け、地中の土や岩石を採取(サンプリング)し、その物理的・力学的特性を詳細に分析する調査です。
採取された試料は陸上試験室で土質試験に提供され、土の分類や含水比、密度、強度、圧密特性などが評価されます。
また、掘削孔内で標準貫入試験や孔内水平載荷試験といった原位置試験も実施し、地盤の硬さや変形特性を直接的に測定します。
サウンディング調査
サウンディング調査は、地盤中にプローブ(先端コーン)を貫入させ、その抵抗値から地盤の硬軟や土層の変化を連続的に把握する調査です。
代表的なものに、コーン貫入試験やスウェーデン式サウンディング試験などがあります。これらの試験は、比較的短時間で広範囲の地盤状況を把握できるという利点があり、ボーリング調査と組み合わせて実施することで、より効率的かつ精度の高い地盤評価が可能になります。
これらの調査を通じて得られたデータは、防波堤や桟橋、洋上風力発電施設の基礎設計、海底トンネルやパイプラインのルート選定、液状化対策工法の検討など、海洋土木工事のあらゆる段階で欠かせない判断材料となります。
波・潮流・水深などの環境調査
海洋構造物の設計や施工、その後の維持管理においては、建設地の海洋環境特性を正確に把握することが極めて重要です。
波、潮流、水深、水質、底質、気象といった多岐にわたる環境因子は、構造物の安全性や耐久性、さらには周辺環境への影響を大きく左右するため、詳細な調査が必須となります。
そのため、これらの環境調査データは、海洋構造物の設計条件を決定し、施工計画を最適化する上で欠かせないものとなります。
調査の工程と安全管理体制
海洋建設における調査作業は、その成果が構造物の安全性や耐久性に直結するため、徹底した事前準備と厳格な安全管理体制のもとで実施されることが欠かせません。
そのため、東日本海洋建設では、長年の経験と最新の技術に基づき、すべての工程において高品質かつ安全な作業を追求しております。
調査前の準備と機材の選定
調査作業を開始するにあたり、まず最も重要となるのが「綿密な計画の策定」です。計画段階で、調査の目的や範囲、期間、最適な手法を明確に定める必要があります。
綿密な計画策定
調査計画は、対象となる海洋構造物や海域の特性、求められるデータ精度を考慮して立案されます。
具体的には、調査対象の図面や過去の記録の確認、現場の海象・気象条件の事前予測、さらには周辺環境への影響評価なども含まれます。リスクアセスメントを実施して潜在的な危険要因を洗い出し、それに対する対策を講じることもこの段階で行われます。
適切な機材の選定と点検
計画に基づき、調査目的に合致した最適な機材を選定します。
「潜水調査」には高性能な水中カメラやソナー、ROV(遠隔操作無人探査機)などが、「海底地盤調査」にはボーリングマシンやサウンディング装置が用いられます。
選定された機材は、作業前に厳格な点検を行い、その性能が最大限に発揮され、かつ安全に運用できることを確認します。特に、潜水機材や命綱、通信機器などは入念なチェックが欠かせません。
人員配置と役割分担
調査チームは、潜水士、潜水監督、船舶操縦士、重機オペレーター、測量技術者など、各専門分野の有資格者と経験豊富な技術者で構成されます。
それぞれの役割と責任を明確にし、緊急時を含めた連携体制を確立することで、円滑かつ安全な作業を行っております。
作業中の安全確保(ダイバー支援・監視体制)
海洋での調査作業は、常に自然環境の変化や予測不能な事態と隣り合わせにあります。そのため、作業中の安全確保は最優先事項として徹底した管理体制を敷いております。
また、潜水士の健康状態は日々チェックし、疲労や体調不良がある場合は無理な潜水は行いません。高気圧作業安全衛生規則など、関連法規を厳守し、安全衛生管理を徹底しております。
船舶・重機作業における安全管理
船舶や重機を使用する調査作業においても、同様に厳格な安全管理が求められます。作業エリアの明確化、船舶の安全航行、重機操作員の資格確認と経験に応じた配置、そしてワイヤーロープやクレーンなどの定期的な点検は欠かせません。
また、気象・海象条件のリアルタイム監視を行い、荒天時や視界不良時には作業を中断するなど、状況に応じた柔軟な判断で安全を確保します。
緊急時対応計画
予期せぬ事態に備え、詳細な緊急時対応計画を策定しております。
これには、事故発生時の連絡体制や救急医療機関との連携、救助活動の手順、災害発生時の避難計画などが含まれます。
すべての作業員がこの計画を熟知し、迅速かつ的確な行動が取れるよう、定期的な訓練を実施しております。
調査後の報告書作成と分析技術
現場での調査作業が完了した後も、その成果を最大限に活用するための重要な工程が続きます。それは、収集したデータの整理や分析と、それに基づく詳細な報告書の作成です。
データ整理と解析
現場で収集された膨大なデータ(写真、動画、音響データ、地盤データ、環境データなど)は、丁寧に整理・分類していきます。
その後、それぞれのデータが持つ意味を深く掘り下げ、高度な分析技術を駆使して解析します。
例えば、地盤調査データからは地盤の強度や安定性を、水中カメラ映像からは構造物の劣化状況や生物付着状況などを詳細に把握していきます。
報告書作成と提案
解析されたデータは、写真、図面、グラフなどを豊富に盛り込んだ客観的で分かりやすい報告書としてまとめます。
この報告書には、調査結果だけでなく、そこから導き出される考察や、今後の維持管理、補修工事、または新たな構造物設計に向けた具体的な提言も含まれます。
これらは、お客様が状況を正確に理解し、適切な意思決定を行うための重要な資料としてご活用いただいております。
実際の施工事例と調査の活用例
東日本海洋建設は、これまで数多くの海洋建設プロジェクトにおいて、その基盤となる重要な調査作業を手掛けてまいりました。
ここでは、その中でも特に代表的な施工事例をご紹介いたします。
サントリー梓の森:曝気槽(ばっきそう)内調査工事
サントリー梓の森工場様において、水処理施設の重要な一部である曝気槽の内部調査および工事を実施いたしました。

日本ハイボルテージケーブル桟橋:潜水調査工事
日本ハイボルテージケーブル株式会社様が所有する、重要なインフラ施設である桟橋において、潜水調査工事を実施いたしました。この桟橋は、海底ケーブルの陸揚げ地点として重要な役割を担っており、その安全性こそが安定した電力供給に直結するため、慎重に調査工事を行いました。

まとめ:「調査力」が支える東日本海洋建設の信頼性
海洋建設プロジェクトの成功は、その根幹を支える緻密な調査作業にかかっていると言えます。目に見えない海底の状況や、予測困難な自然環境を正確に把握することは、安全で高品質な構造物を築き、長期にわたって維持管理していく上で欠かせないものです。
東日本海洋建設では、熟練のダイバーによる潜水調査から、海底地盤の精密なボーリング・サウンディング調査、既設構造物の老朽化点検、さらには波や潮流といった環境調査に至るまで、プロジェクトのあらゆるフェーズにおいて、現場の状況を詳細かつ正確に把握してまいりました。
これらの調査によって得られる膨大なデータと専門的な知見は、施工計画の最適化だけでなく、予期せぬトラブルのリスク低減や安全で高品質な構造物の実現において欠かせないものです。
私たちは、確かな調査力こそが、お客様に安心と信頼を提供するための基盤であると確信しております。
今後も高度な調査技術と徹底した安全管理体制をもって、日本の海洋インフラを支え、持続可能な社会の実現に貢献してまいります。
私たち東⽇本海洋建設は、これからの⽇本の国⼟を⽀えてくれる、チャレンジ精神溢れる⼈材を求めています。若⼿が闊達に意⾒を述べ、ベテランとの相乗効果を発揮して、技術⼒を⾼め、信頼を得られる仕事を続けていく、それが当社の理想であり、その姿が今社⾵として根付いてきています。
⾃分の気持ちを表現すると同時に⼈の話も聞ける⼈、双⽅の⽴場に⽴って、互いの意⾒を調整することにやりがいを感じられる⼈、そして、相⼿のためにやったことが⾃らのためになると信じて前に進んでいける⼈──そんな⼈たちからのご応募をお待ちしています。
⼀緒に、⽇本の未来を⽀えていきましょう。